発注者(親事業者)の方へ! 【2026年1月1日施行】「下請法」が「取適法」に進化します

2026年(令和8年)1月1日から施行される「中小受託取引適正化法(略称:取適法/とりてきほう)」は、従来の下請法を抜本的に改正するものです。

特に「委託者(発注する側)」にとっては、これまでの商習慣が違法となる可能性が高く、業務フローやシステムの改修が必要となることも考えられます。

委託者(旧:親事業者)の視点で、法改正の要点と実務上の注意事項をまとめました。
(本記事は2025年11月25日時点で入手できる情報をもとにしております。今後さらに運用基準などが追加で定められた場合には、本記事の内容を更新する場合がありますので予めご承知ください。)


1.【最重要】委託者が「やらなければならない」3つの実務対応

今回の改正で、委託者に課される義務が強化されます。特に以下の3点は直ちに対応が必要です。

① 手形払いの「原則禁止」と完全現金化

これまでは「割引困難でない手形(期間120日→60日短縮)」は認められていましたが、新法では手形払いそのものが原則禁止となります。

  • 変更点: 支払いは「現金」または「満額が現金化できる方法」に限られます。
  • 注意点:
    • 手形: 原則として認められません。
    • 電子記録債権(でんさい): 支払期日までに、受託者が『「手数料負担なし」かつ「満額」』を受け取れない場合は違法となる可能性があります(※現在、ファクタリング等も含めた詳細な運用基準が詰められています)。
    • サイト: 支払期日は引き続き「納品から60日以内」でかつ「可能な限り短く」設定する必要があります。

② 「価格交渉」への応答義務化(買いたたき禁止の厳格化)

「協議を行わない一方的な代金決定」が明確に禁止行為に追加されます。

  • 変更点: 受託者(受注側)から「コストが上がったので価格を上げてほしい」と協議の申し入れがあった場合、委託者は必ず協議に応じなければなりません
  • 注意点:
    • 無視したり、協議のテーブルについても形式だけで「予算がないから無理」と一方的に突き放す行為は、法違反(指導・勧告の対象)となるリスクが高まります。
    • 協議の内容や経過を記録に残す体制が必要です。

③ 対象範囲の拡大(自社が規制対象か再確認)

規制対象となる事業者の基準に「従業員数」や「取引類型」が追加されます。

  • 変更点:
    • 従業員基準の導入: 従来は「資本金」のみで判断されていましたが、資本金が小さくても従業員数が多い企業(例:300人超など)は「委託者」として規制対象になる可能性があります。
    • 物流(運送)の追加: これまでグレーゾーンだった荷主による運送会社への依頼が「特定運送委託」として明確に法の対象になります。

2.実務担当者が注意すべき変更ポイント

法律の名称変更に伴い、社内マニュアルや契約書の雛形修正が必要です。

項目旧(下請法)新(中小受託取引適正化法)
法律名下請代金支払遅延等防止法中小受託取引適正化法(取適法)
発注側親事業者委託事業者
受注側下請事業者中小受託事業者
代金下請代金製造委託等代金

【ここがポイント】

  • 「下請」という言葉が消えます: 「下請」=上下関係というイメージを払拭するためです。社内規定の「下請法対応マニュアル」などは名称変更が必要です。
  • メール発注が楽になります: 書面交付(発注書)の電子化(メールやEDI)について、これまでは「相手の承諾」が必須でしたが、新法では**「承諾不要」**となる見込みです(※ただし、電磁的方法で提供する旨の通知等は必要)。

3.委託者(発注側)が準備すべきTodoリスト

施行(2026年1月)までに以下の準備を完了させてください。

  1. 支払条件の洗い出しとシステム改修
    • 現在、手形払いを行っている取引先がないか確認する。
    • 2026年1月以降の支払分から「現金振込」等へ切り替えるための資金繰り計画とシステム変更を行う。
  2. 対象取引先の再選定
    • 資本金基準だけでなく、従業員基準や、運送委託を含めて「法の適用対象となる取引先」が増えていないか再チェックする。
  3. 調達・購買部門への教育
    • 「価格転嫁の協議」を拒否することが違法になると周知徹底する。
    • 「コストダウン要請」が「一方的な代金決定」とみなされないよう、交渉プロセスの記録ルールを作る。
  4. 契約書・発注書フォーマットの更新
    • 用語(親事業者→委託事業者など)の修正。
    • 電子発注(メール等)への切り替え手続きの簡素化。

まとめ

この法律は、従来の「下請法」以上に「発注側の逃げ道を塞ぐ」内容となっています。特に「手形の廃止」「価格協議の義務化」は経営への影響が大きいため、現場任せにせず、経理・法務を含めた全社的な対応プロジェクトとして進めることを強くお勧めします。

ご参考(2025年11月25日現在の参考資料へのリンクです)

公正取引委員会
「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html
「取適法ガイドブック」(https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf
「取適法ポイントリーフレット(委託事業者(=現親事業者)向け)」(https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet1.pdf