受注事業者(下請事業者)の方へ! 【2026年1月1日施行】「下請法」が「取適法」に進化します

2026年(令和8年)1月1日から施行される「中小受託取引適正化法(略称:取適法/とりてきほう)」は、従来の下請法を抜本的に改正するものです。
この抜本改正は、長年「親事業者(発注側)」が有利すぎた力関係を是正し、「受託者(受注側)が価格転嫁や交渉をしやすくするための法律」へと大きく生まれ変わるものです。

この記事では、受託者(受注する中小企業・フリーランス等)の立場から、メリットとなる要点と、実務上の注意事項をまとめました。
:取適法とフリーランス・事業者間取引適正化等法のいずれにも違反する行為については、原則としてフリーランス・事業者 間取弓|適正化等法を優先して適用することとされています。
本記事は2025年11月25日時点で入手できる情報をもとにしております。今後さらに運用基準などが追加で定められた場合には、本記事の内容を更新する場合がありますので予めご承知ください。)


受託者(受注側)にとっての3つの重要ポイント

これまでの「資本金の額」で決まる形式的なルールから、「取引の実態」重視へと変わるのが最大の特徴です。

1. 「買いたたき」の判断基準が厳格化・明確化される

これまで曖昧だった「買いたたき」の定義が変わり、以下の行為が明確に違反(またはその恐れがある行為)となります。

  • ポイント: 原材料費、エネルギーコスト、労務費(賃上げ原資)の上昇コストを取引価格に転嫁することを求めたのに、「協議に応じないこと」自体が違反となります。
  • メリット: 「予算がないから無理」という一方的な拒絶に対し、法的な根拠を持って「協議(交渉)のテーブル」に着くよう要求できるようになります。

2. 対象範囲の拡大(資本金基準の見直し)

これまでは「親事業者の資本金が3億円以上で、下請が3億円以下」といった資本金の区分で守られるかどうかが決まっていました。

  • ポイント: 資本金の額に関わらず、「取引上の優越的地位(力関係)」があるかどうかが重視される方向にシフトします(適用対象となる事業者の基準に、従来の資本金額等による基準に加えて、新たに従業員数による基準が追加されました。従業員数300人(役務提供委託等は100人)の区分が新設され、規制及び保護の対 象が拡充されます。)。
  • メリット: これまで「相手も中小企業だから下請法の対象外」と言われて泣き寝入りしていた取引でも、保護の対象になる可能性が広がります。

3. 違反時のペナルティ強化(懲罰的賠償など)

発注側が違反した場合の罰則が強化されます。

  • ポイント: 悪質な違反に対して、損害額の**3倍賠償(3倍返し)**を認める制度や、社名公表のルール厳格化などが盛り込まれる見込みです。
  • メリット: 発注側のコンプライアンス意識が強制的に高まるため、不当な要求(やり直し、受領拒否、支払遅延)が減ることが期待されます。

受託者が気をつけるべき「注意事項」と「準備」

法律が味方についても、「待っていれば勝手に単価が上がる」わけではありません。 
権利を行使するための準備が必要です。

① 「コストの可視化」をしておくこと

「労務費が上がったので値上げしてください」と言うだけでは不十分です。

  • 対策: 「以前に比べて材料費が〇%、最低賃金改定に伴い人件費が〇%上がっているため、単価を〇円にしてほしい」と示せる根拠資料(見積書の明細や公的な統計データ)を準備してください。これがなければ協議になりません。

② 「協議の記録」を残すこと

もし相手が不当な対応(協議拒否や、報復的な取引停止)をしてきた場合、公正取引委員会などに申告するには証拠が必要です。

  • 対策: 値上げ交渉をした際の日時、担当者、相手の回答(「一律カットだ」と言われた等)を、メールや議事録、メモで確実に残してください。

③ 契約条件の「書面化」を徹底する

新しい法律では、契約内容の明示がより厳しく求められます。

  • 対策: 口頭発注(電話で「やっといて」)はトラブルの元です。必ず発注書(メールや電子契約でも可)をもらい、「いつまでに、いくらで、どんな仕様で」という条件を確定させてから着手する習慣をつけてください。

まとめ:受託者のスタンスはどう変わるべきか?

項目これまでの下請法新しい法制度(2026年〜)
価格決定親事業者の予算ありきコスト変動に基づく協議が義務
スタンス「切られるのが怖くて言えない」「協議を申し入れるのは正当な権利」
武器我慢と忖度コスト根拠データと交渉記録
ご参考(2025年11月25日現在の参考資料へのリンクです)

公正取引委員会
「中小受託取引適正化法(取適法)関係」(https://www.jftc.go.jp/partnership_package/toritekihou.html
「取適法ガイドブック」(https://www.jftc.go.jp/file/toriteki002.pdf
「取適法ポイントリーフレット(委託事業者(=現親事業者)向け)」(https://www.jftc.go.jp/toriteki_pointleaflet1.pdf